第54話|母と私——同じ時間を生きたという実感

第54話|母と私——同じ時間を生きたという実感

第54話|母と私——同じ時間を生きたという実感

特別なことは起きていなかった

この頃、
何か大きな出来事が
起きていたわけではありません。

体調が急に変わる日もあれば、
比較的穏やかな日もある。
その繰り返しでした。

それでも、
一日一日が
確かに積み重なっていく感覚は、
はっきりとありました。


並んで過ぎていく時間

母の一日は、
私の一日とは
同じ形では進みません。

起きている時間も、
眠っている時間も、
できることも違う。

それでも、
同じ家の中で、
同じ空気を吸い、
同じ時間帯に
朝が来て、夜が来る。

完全に重なることはなくても、
どこかで
並んで進んでいる——
そんな感覚がありました。


何かをしているわけではなくても

話す言葉が少なく、
動きも限られている中で、
「今日は何をしたのだろう」と
思う日もありました。

けれど、
何もしていないように見える時間も、
ただ一緒に過ごしているだけの時間も、
確かに
同じ一日として存在していました。

母が目を閉じているあいだ、
私は別のことをしている。
それでも、
同じ時間の中にいる。

その事実が、
この頃は
不思議と心に残りました。


役割ではなく

介護する人。
介護される人。

そうした役割で
この時間を切り分けることは、
この頃、
あまり意味がないように感じられました。

母と私。
それ以上でも、
それ以下でもない。

同じ時間を生きている、
二人の人。

その視点に立ったとき、
少しだけ
肩の力が抜けた気がしました。


同じ時間を生きたということ

振り返ったとき、
この時期のことを
どう思い出すのかは、
まだ分かりません。

けれど、
少なくとも今は、
「支えた時間」でも
「耐えた時間」でもなく、

同じ時間を生きた時間
として
胸に残っています。

それだけで、
この日々には
十分な意味があったのだと
感じていました。

第53話|寄り添うということ——過不足のない距離を知る
第55話|静かな夜のこと——続いていく生活の中で