第55話|静かな夜のこと——続いていく生活の中で

第55話|静かな夜のこと——続いていく生活の中で

第55話|静かな夜のこと——続いていく生活の中で

夜が、特別でなくなる

この頃の夜は、
特別なものではなくなっていました。

何かを待つわけでもなく、
身構えるわけでもない。

日が沈み、
家の中が静かになり、
一日が終わっていく。

ただ、それだけの夜でした。


音の少ない時間

夜になると、
聞こえてくる音は
限られていました。

時計の音。
遠くの車の音。
母の呼吸。

それらは、
注意深く聞かなければ
分からないほど小さく、
でも、
確かにそこにありました。

何かを確かめるためではなく、
ただ、
その音と一緒に
夜を過ごしていました。


何も起きていないということ

この夜も、
大きな出来事はありませんでした。

母は眠り、
私はそばにいて、
時間が過ぎていく。

それだけのことでした。

けれど、
何も起きていないということが、
この頃は
そのまま安心につながっていました。


続いていく生活

在宅で過ごすという選択は、
何かを成し遂げることではなく、
生活を続けていくことでした。

今日が終わり、
また朝が来る。

その繰り返しの中に、
母の時間と、
私たちの時間が
重なっていました。

特別な意味づけをしなくても、
この生活は
確かに続いていました。


今、この静けさの中で

この夜が、
どこへ向かっているのか。
この先、
何が待っているのか。

それを考えることは、
この頃は
あまりしていませんでした。

今、
この静けさの中にいる。

それだけで、
十分だったのだと思います。


夜は、静かに終わる

母が眠り、
家が静まり、
一日が終わる。

その光景は、
特別なものではなく、
日常の一部でした。

そして、
この日常は、
今も続いています。

終わるためにある時間ではなく、
生きているあいだに
重ねられていく時間として。

この静かな夜の中で、
私たちは
確かに、
同じ時間を生きていました。


※現在、2026年1月3日。
余命として告げられていた半年はすでに過ぎ、
クリスマスを終え、
こうして新しい年を迎えています。

この時間もまた、
特別な出来事ではなく、
続いている生活の一部として、
静かにここにあります。

第54話|母と私——同じ時間を生きたという実感