第48話|手を握る時間——言葉の代わりに残るもの

第48話|手を握る時間——言葉の代わりに残るもの

第48話|手を握る時間——言葉の代わりに残るもの

触れることで伝わること

話す言葉が減り、
眠っている時間が増えるにつれて、
触れる時間が自然と増えていきました。

声をかけなくても、
そっと手に触れる。
返事がなくても、
その温度を確かめる。

言葉の代わりに、
触れることで
伝わるものがあると感じるようになっていました。


手を握るという行為

特別な意味を持たせたわけではありません。

通りがかりに、
ベッドの横に立ったとき、
何となく手を取る。

強く握るでもなく、
引き留めるでもなく、
ただ、そこにある手に
こちらの手を重ねる。

その時間は、
短いこともあれば、
少し長くなることもありました。


反応がなくても

目を閉じたままのことも多く、
握り返されることは
ほとんどありませんでした。

それでも、
手を離すとき、
わずかに指が動いたように
感じることがありました。

確かめるほどのことではなく、
でも、
何もないわけではない。

そんな曖昧さの中に、
確かな気配がありました。


言葉を必要としない時間

「大丈夫?」
「分かる?」

そう問いかける代わりに、
何も言わずに
同じ時間を過ごす。

言葉がなくても、
安心できる時間が
確かにありました。

伝え合うことは、
必ずしも
言葉だけではない——
この頃、
そう感じる場面が
増えていきました。


残っていくもの

できることが減っても、
話す言葉が少なくなっても、
触れることは残る。

手の温度。
わずかな動き。
呼吸のリズム。

それらは、
その日その日の母を
確かに感じさせてくれました。


静かな時間のそばで

言葉が少なくなり、
できることも減っていく中で、
それでも残るものがありました。

そばにいるという感覚。
触れているという確かさ。

そして、この時間は
私たち家族だけで
支えているものではない、
ということも、
この頃には
はっきりと感じるようになっていました。

第47話|眠っている時間が増える——起きている瞬間の輪郭
第49話|支える輪が重なっていく——在宅で生きるという選択