目次
第12話|訪問診療をお願いした理由——病院から“医療が家に来る”へ
3週間に1度の通院は続くけれど
母は今でも、
3週間に一度、大きな病院へ通っています。
主治医の診察と、
3週間分の薬を受け取るため。
「1クール3週間」という治療のリズムは
これからも当面の間は変わりません。
通院は必要。
でも、その負担は確実に大きくなっていました。
病院までの移動、
駐車場から建物までの距離、
検査前の待ち時間——。
診察が終わって車に戻る頃には、
母はいつも肩で息をしていました。
その姿を見るたび、
通院の重さと、
この先どう支えていけば良いのかという不安が
胸の奥で静かに揺れていました。
ケアマネが提案してくれた“備えるための訪問診療”
そんな中、ケアマネさんが
ある日ふと、こう言いました。
「今はまだ通院できますが、
もし“何かあったとき”に備えて、
元気なうちから訪問診療の先生に
お母さまの様子を見ておいていただいた方が
安心ですよ。」
その言葉は、とても理にかなっていました。
訪問診療は、
通院をやめるためではなく、
いざという時にすぐ動けるように、
“体制を整えておく”ため。
母の普段の様子を知っている医師がいれば、
小さな変化にも気づいてもらえる。
緊急のとき、迷わず相談できる。
頭ではすぐに理解できました。
けれど同時に、
胸の奥が少しだけ痛むような感覚もありました。
「ケアマネさんは、
私たちがまだ気づけていない“先”を見ている——」
そんな現実を
そっと突きつけられたような気がしたからです。
どこかで“よくなる未来”を信じていた家族
母本人も、
私たち家族も、
心のどこかで思っていました。
このまま何年も
今の状態が続くのではないか。
少しずつでも
よくなっていくのではないか。
そう思いたい気持ちが
どこかにありました。
だからこそ、
「訪問診療を入れる」という言葉が
ほんの少しだけ現実を近づけてしまうようで、
胸が締めつけられました。
それでも、
母の暮らしを守るためには必要な選択でした。
訪問診療の初日——“チーム”が家に揃う瞬間
訪問診療の初回の日。
家には、
ケアマネさん、
訪問看護師さん、
訪問診療の先生、
そして訪問調剤薬局の薬剤師さんが
一度に揃いました。
これが、
母の在宅生活を支える
“小さなチーム”でした。
医師と看護師が母の体調を確認し、
薬剤師が飲み方や副作用を丁寧に説明してくれる。
ケアマネさんは
家全体の生活の流れを見ながら
必要な調整を進めてくれる。
「私たちがチームでサポートしますので、
何かあればすぐに連絡してくださいね。」
その言葉は、
これまでにないほどの安心を
家の中に広げてくれました。
安心とともに、静かに目の前に置かれた“現実”
その一方で、
ふと胸の奥に、
冷たい何かが触れたのも確かでした。
こんなに多くの人たちが
“母の生活を支えるために”
家に集まってくれる——
それは同時に、
**いつか必ず訪れる“その時”**を
否応なく意識させる出来事でもありました。
安心と現実。
光と影。
どちらも同時に目の前に置かれたような、
そんな日でした。
それでも、
母のために支えてくれる人たちが増えることは、
私たちにとってかけがえのない救いでした。
訪問診療が始まったこの日は、
在宅生活における大きな節目になりました。
←第11話|訪問看護が来た日——知らなかった“支える仕事”の存在
第13話|薬の調整と副作用 —— 小さな変化が生活全体に広がる →

