第10話|ケアマネとの出会い——“支援者が増える”という安心
介護保険の申請を終えて数日後、
市役所から 訪問調査 の連絡がありました。
それは制度として決められたステップで、
母の日常生活の様子や状態を確認するためのものです。
調査員と市の委託を受けた 地域包括支援センター の
社会福祉士の担当者が家を訪れ、
母にいくつかの質問をしながら状況を丁寧に聞き取っていきました。
けれど、その時間の中で
母は自分の病名や病状について、
一切口に出そうとしませんでした。
質問されても、
「うん、大丈夫よ」と笑って答えるだけ。
本当は大丈夫ではないと、
隣で見ている私たち姉妹にはわかっていましたが、
母はどうしても
“自分が弱くなったこと” を認めたくないように見えました。
調査が終わったあと、
包括支援センターの担当者が
玄関先で私にそっと言いました。
「まだ、ご自分の病状を受け止めきれていないのでしょうね。
無理もありませんよ。ゆっくりで大丈夫です。」
その言葉に、
胸の奥に重たく沈んでいたものが
少しだけ和らいだ気がしました。
ケアマネとの出会い
数日後、包括の担当者が
「お母さまに合いそうな方です」と
ケアマネージャーを紹介してくれました。
母の状態を電話で伝えたところ、
そのケアマネさんは驚くほど早く反応し、
その日のうちに訪問の日程を決めてくれました。
スピード感のある対応に、
私たち家族は心の底から救われるような気持ちになりました。
そして実際にお会いしたケアマネさんは、
本当に温かい人でした。
母の表情や声の調子をよく観察し、
急がず、ゆっくり、
母が話せる範囲のことだけを優しく引き出してくれる。
母がまだ病名を受け入れられないまま、
不安と強がりの間を行き来していることも、
表情のわずかな変化から
そっと汲み取ってくれているようでした。
このときの母は、
自分がお世話になる未来を
まだまったく具体的に描けていなかったのだと思います。
でも、ケアマネさんの落ち着いた声と、
母の言葉を否定しない姿勢に、
母の肩から少しずつ力が抜けていくのを感じました。
私たち姉妹にとっても、
“家族以外の誰かが、母のことを共に見つめてくれる”
その事実は、思っていた以上に大きな安心でした。
支援が家に入るということ
在宅で支えていくと決めたものの、
家族だけでは抱えきれないことが
この先たくさん出てくるだろうという予感は
すでに日々の中に漂っていました。
そんな中で
包括支援センターの担当者、
ケアマネージャー、
そしてこれから関わってくれるかもしれない多くの支援者たち。
彼らの存在は、
私たち家族にとって
“見えない手をそっと差し伸べてくれる”ような安心でした。
母の暮らしに、
少しずつ支援の光が差し込んでくる。
その始まりが、
この日でした。
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