第4話|手術の日——家族に迫られた“選択”と沈黙の重さ

第4話|手術の日——家族に迫られた“選択”と沈黙の重さ

第4話|手術の日——家族に迫られた“選択”と沈黙の重さ

手術当日の朝

手術当日は、母は前日から入院していたため、病院で落ち合いました。
手術の準備が静かに進む中、看護師さんから
「なにかあればこちらに電話が入ります」と、院内専用の電話を渡されました。

手術は5〜6時間ほどかかる、と聞いていました。
電話が鳴らないことを祈りながら、
わたしたちは予定された時間をただ静かに待つしかありませんでした。


予定より早い呼び出し

けれど、手術が始まって2時間ほど経った頃、
その電話が突然鳴りました。

姉妹3人で顔を見合わせ、
互いに必死に冷静を装いながら、震える手で電話を取りました。

「手術が行われているフロアの談話室に来てください。」

その一言で、
ただの待ち時間が、一気に“現実の時間”へと変わりました。

エレベーターの数字がゆっくりと変わるのを見つめながら、
わたしたちは誰も言葉を発しませんでした。


医師からの告げられた現状

談話室に入ると、
執刀医の先生が丁寧に、しかし率直に状況を伝えてくれました。

思いのほか多臓器への転移が進んでいること。
すべてを取り除こうとすると非常に長い時間がかかること。
母の体力がその負担に耐えられる保証はないこと。
そして、仮に取り除いたとしても「きれいになる」とは限らないこと。

医師は事実を淡々と、誠実に話してくれました。
あの日の説明を、わたしは今でもはっきりと覚えています。

「ご家族として、どうされますか。」

そう言われた瞬間、
時間が少しだけ止まったように感じました。


家族としての判断

わたしたちは医療の専門知識がありません。
判断すべき選択肢が目の前に置かれていても、
それが“絶対に正しい道”なのかはわからない。

ただ一つだけ確かだったのは、
母にとって「何が最も苦痛を減らせるか」ということでした。

結果として、
がん細胞をすべて取り除く方向ではなく、
胃の通り道が塞がらないようにするバイパス手術のみをお願いすることにしました。
母が食事をとり続けられるように。
少しでも日常に近い時間を保てるように。

決断と言うよりも、
「最善を先生に託す」という選択だったのかもしれません。

執刀医の先生は、
「わかりました。できる限りのことをします」と
静かにうなずいてくれました。


手術室へ戻っていく時間

説明が終わると、手術は再開されました。
静かな廊下を歩きながら、
わたしたちは誰も口を開きませんでした。

ただ、胸の奥に
「どうか、無事に終わりますように」
という思いだけが静かに広がっていました。

待合室に戻ると、
先ほどまでと同じ椅子に座っているのに、
まったく違う時間が流れているように感じました。


今、思うこと

あの日の判断が正しかったかどうか――
それは今でもわかりません。
きっと、どの答えを選んでも、同じ問いは残ったと思います。

けれど、家族としてできる精一杯を
あの場で出したということだけは、
半年経った今でも胸に静かに残っています。

医療の専門家ではない家族ができるのは、
“願い”と“選択”と“覚悟”だけなのだと、
あの日の待合室で知りました。

🌿
沈黙の多い一日でしたが、
その沈黙が、母を支える決意の形になっていったように思います。

第3話|入院の日 —— 母を見送る背中に重ねた思い
第5話|手術後の夜 —— 母の表情に見えた“別の強さ”