第38話|午後の眠りが深くなった日——話す時間が短くなる
午後になると、目を閉じる時間が増えた
午後になると、
母は長い時間、目を閉じて過ごすようになりました。
眠っているのか、
ただ横になっているだけなのか、
はっきりとは分かりません。
声をかければ、
ゆっくりと目を開けてくれます。
けれど、しばらくすると、
また静かにまぶたが閉じていきました。
会話が少しずつ短くなる
午前中は、
短い時間でも言葉を交わすことができていました。
天気のこと。
庭のこと。
昔の出来事を、ぽつりと思い出すように。
でも午後になると、
会話は自然と少なくなっていきました。
無理に話題を探すことはしませんでした。
言葉を続けること自体が、
母の負担になっているように感じられたからです。
生活の音だけが残る時間
時計の針の音。
遠くで聞こえる車の音。
湯呑みを置く、小さな音。
そんな生活の音だけが、
部屋の中を満たしていました。
以前なら、
「起こしてしまわないように」と
気を張っていた時間でした。
でもこの頃には、
眠っている時間もまた、
母の一日の一部なのだと
受け止められるようになっていました。
失われたのではなく、形が変わった
話す時間が短くなった代わりに、
ただ同じ空間にいる時間が増えました。
それは、
何かを失ったというよりも、
関わり方が静かに変わっていった
そんな感覚でした。
午後の光が少し傾き、
部屋の色が変わっていくのを眺めながら、
私はその変化を、
特別な意味づけをすることなく
そのまま受け取っていました。

