第33話|寄り添い方を変える——支える側の再編

第33話|寄り添い方を変える——支える側の再編

第33話|寄り添い方を変える——支える側の再編

母の生活がゆっくり小さくなっていくにつれて、
私たち姉妹の動き方もまた、
自然と変化していきました。

以前は
「母の生活に私たちが合わせる」
という感覚が強かったのですが、
この頃からは
“母の力に合わせて、生活そのものを組み直す”
という段階に入ったのだと思います。

それは、何か大きな話し合いがあったわけでも、
誰かが提案したわけでもありません。

ただ、日々の積み重ねの中で
静かに形を変えていった変化でした。


見守りの時間を細かく分けるようになった日々

午後に動けない日が続くようになると、
見守る時間帯の重要性が変わりました。

以前は
「夕方までに誰かが寄れば大丈夫」
という感覚でしたが、
この頃からは
一日の時間そのものが“要の時間”
になっていきました。

姉妹で交代していた当番も、
昼だけではなく、
夜の見守りを含めた
細やかな調整が欠かせなくなりました。

無理をするわけでも、
慌てたわけでもなく、

「今日は私が行けるよ」
「明日はそっちをお願いね」

と、ごく自然なリズムの中で
再編されていったのです。


支援者との距離も少しずつ変わっていく

母の変化に伴って、
支援者の関わり方も
静かに変化していきました。

訪問診療の医師には、
小さな変化をそのまま伝えるようになり、
看護師とは
生活で気になったことを細かく相談するようになりました。

薬剤師から届く薬の受け取りでは、
薬の飲み忘れや時間帯の工夫について
短い立ち話をすることが増えました。

ケアマネジャーとの面談でも、
母の生活ぶりを
これまでより具体的に伝えるようになりました。

それらは
「助けを求める」というより、
“支える輪を少しずつ内側へ寄せる”
そんな自然な変化でした。


生活のペースを、母に合わせて整える

母がほとんど動けない日が続くと、
家事の組み立て方も変わりました。

午前中にまとめて買い物を済ませたり、
夕食の準備を少し早めに始めたり。

また、
母が起きている午前中にできるだけ話をし、
午後は、母の休息を妨げないように
なるべく静かに過ごすようになりました。

それは
「介護」というより、
「生活の呼吸を合わせる」という感覚。

母の一日のリズムに寄り添っていくことは、
私自身のリズムも
そっと変えていく行為でもありました。


“大きな変化”ではなく、“静かに積み重なる変化”

母の体調に合わせて
家族で動き方を変えていくことは、
決して劇的な出来事ではありません。

むしろ、
一つひとつは小さく、
誰かが気づかないほど
静かで自然な変化でした。

でも、その小さな変化の積み重ねが
母の生活を守り、
私たち自身を守ることにも
つながっていたのだと思います。

そして、気づいたときにはもう、
私たちは新しい形で
“支える生活”へと移っていました。

第32話|午後の沈黙——生活のリズムが崩れていく
第34話|“今”を生きるための選択——母と私が決めたこと